檸檬

生きるための生活をしています

才能

雨の降る晩、才能は自分で有無を決めていいものかと考えた。「私には才能がないんだ」と言うことは容易いが、「私には才能がある」と誇示することも容易い。他人から見たものが真実であるとすれば、私は一人では成り立たないのかと言えばそうでもない。きっと一人でテレビを見ている時、溶けて居なくなったりはしないし、世界の音は突然止んだりもしない。才能って何だろう。あるから、良いものなのだろうか。勿論、そのジャンルに長けているという事は人生を彩る絵具に十分事足りるだろう。

では才能が無いものは一文無しを意味するのかと言うも、違うような気がする。才能なんて、きっと他人に理解されようがされまいがどうでもいい。それほど曖昧で、くだらない呪いなんだと思う。

ね?

『ひとりじゃない』という言葉は何度も聞いたし、私もその言葉で悩まされてきた。

どの状態が『ひとりじゃない』ことを指すのか?

 

精神的に寄り添える恋人がいれば『ひとりじゃない』?

優しく受け止めてくれる家族がいれば『ひとりじゃない』?

沢山の気の良い友達がいれば『ひとりじゃない』?

分かり合えたら誰でも良いの?でもきっと私たちは分かり合えない。私の好きな著名人は「分かり合えない」と断言していた。きっとそうなのだ。でも、分かり合えないという事を分かり合えていたとしたらひとりじゃないかもしれない。人それぞれといえばそこまででも、私はやはり、人間はずっと寂しいままで、ずっと孤独のままだと思う。例えそれがクラブでテキーラを飲むようなパーリーピーポーでもクラスの端っこで人を見下す陰キャでも、それは変わらない。

心でも何でも分かり合えない。悲しいことに。私はそんなことを考えて秋の夜を過ごす。

星が綺麗です。

昔見た映画

私が大人になる度に、色んなことを忘れ去っていくことがこんなにも悲しい。

道端に咲いた花に歓喜すること、木々のざわめきが優しく心身を包んでいること、涙を流す時必ず月と空は見ていたこと、許されない現実に殺されても貴方は私を許したこと、そんな大事なことを少しずつ忘れて大人になってしまう。

 

堂々巡りのように見える風景も何もかも忘れていく。

だからいつまでも時間の流れに掴まっていたい。そうやって生きていたい。

きっとそれは死んでいくことと同等な意味を成す。時間と共に人間は変わっていく。

同じ12時を何度も繰り返すけど、同じ12時に何度も泣いたけど、その度に私が変わっていく。

昨日の私はどこにもいない、明日の私は私じゃない。どうしようもない事だけど、どうしようもあったらこんなこと言わなかったと思うから。そんな気持ちを大切にしたい、ね

またね

 

また同じ春が来たねと、

去年言っていたひとはもう隣にいなくて

違う春かと思うけど、やっぱり同じ春。

私も誰かの「あなた」になれたかな

私たち何度も繰り返してる

別れて好きになって付き合って別れて好きになって付き合ってをずっと。

 

「同じこと、もう繰り返したくないよ」って君はいうけどさ、仕方ないと思うんだよ

だって同じ季節だもん。同じ春だ。

あの時と同じ、桜が咲いてまた散って行くこの季節を私たちもう何回も繰り返したね

大丈夫 君は変われない。

 

そんな絶望的な夢物語を、

新世界

苺の種みたいに君を噛み砕きたくなる夜とか珈琲みたいに苦くて目を瞑っちゃう恋とかパスタみたいに伸びてしまった時とか、もうそういうのさえ許せなくなってしまう私がいる。

涙を流せば流すほど綺麗になるという迷信は明後日の方向で飛んで行き、今は遠くの地域で優しく優しく撫でられている。涙なんか綺麗なものじゃなくて、涙を流した事実も綺麗になるカンフル剤なんかじゃない。泣き顔が好きだった男の性癖が勝手に付けたそれでしか無いに決まってる。きっとそう、そうじゃないと困るから。

 

今頃絶世の美女になれるぐらい泣いたはずなのに、私が美女になれない理由というのは周りが私よりもっと泣いているから、

泣くと目が霞んで視界はどんどん悪くなる一方見なくていいものを見る必要が無くなるのかもしれない。鴉は今日も世界の哀愁漂うドラマをカァカァと鳴きながら悠然と見下ろしている。

悠然

「聞いてほしいことがあるの」

彼女は突然思い立って、口に出した。ベランダ菜園を網戸越しに眺める僕は彼女の方を向かずに「んー」とだけ唸った。

彼女が大袈裟に息を吸う。まだ残暑が厳しい9月のはじめ。蝉の鳴き声がピタリと止んだ時、君は多分笑った。

 

「私 来月結婚するの」

 

 

沈黙が何だか恥ずかしかった。

僕は考えていた。思考を張り巡らせて木の枝みたいに、終わりのない迷路みたいに、考えていた。でも考えている様子は見せないように、あくまでも素っ気なく興味の無いように言葉を真に受けていないように、葉っぱに止まったアブラムシをじっと見つめながら「そう。」と答えて、もう少ししてから「おめでとう」と付け加えた。彼女は「君ならなんて言うのかなって思ってたけど、やっぱり君は期待を裏切らないね」と言って、冷凍庫に入って一ヶ月眠っていたアイスを無邪気に貪った。時々「冷たいな」なんて言いながら。僕はやっぱりアブラムシを見ていた。ううん、僕はアブラムシを見ていなかった。君のことを見ていた。君の少し焼けた肌とか暑さで熱を持った頬とか化粧っ気のない唇とかを、思い出していた。

 

今の君を見つめずに過去の君を、僕はずっと思い出していた。

依存症

君に許されたい

君に愛されたい

君に好かれたい

君に殴られたい

君に蹴られたい

君に殺されたい

君に触られたい

君に慰められたい

君に触りたい

君に優しくされたい

君に見つめられたい

君に求められたい

君に叩かれたい

君に喋りかけられたい

君に傷つけられたい

君に犯されたい

君と死にたい

 

みんなが言えないことを私が紡ぎました